もやい結びの欠点-リング荷重



もやい結びは、キングオブノットと呼ばれ、万能な結び方で、レスキューでは三打ち救助をはじめロープレスキューでも使用される結び方です。

そんなもやい結びですが、1つ大きな欠点があります。

それがもやい結びの欠点-リング荷重です。

リング荷重とは、もやい結びの輪(リング)の部分にひっぱりの荷重をかけると結びがほどけてしまう危険な行為を指します。

輪(リング)に荷重が掛かることからリング荷重と呼ばれます。



通常のもやい結びです。末端処理はしていません。



もやいのリング部分に荷重をかけると





末端が引っ張られ徐々にゆるんで来ました。



あっと思った瞬間!



ほどけてしまいます。

過去にクライミングの世界でこのリング荷重による事故が何件か発生しています。

スタティックロープ、三打ちロープはたまた何か命綱のような使い方をする場合で、もやいを使用する時は、リング荷重に気をつけ、リング荷重を掛けない、万一のリング荷重に備えて末端処理を必ず実施することを行ってください。


末端処理の方法は、多くあるのですが以下では、ロープレスキューで行われる代表的な、もやい結びの末端処理の方法を紹介します。

もやい結びの末端処理 その1

もやい結びの末端処理 その2

また、そもそものもやい結びの結び方とリング荷重について動画や写真で紹介しています。

もやい結びの結び方と末端処理とリング荷重に関する情報の整理


ニュートン( N ) ちからの単位




カラビナやアンカープレートに記載されている、KNという刻印をよく目にすると思います。KNのNはちからの単位でニュートンと呼びます。

この写真では、MBS50KNと記載されています。

MBSとは、Minimam Breaking Strength(ミニマムブレーキングストレングス)の頭文字をとったもので、最小破断強度を意味します。

スタティックロープはもちろん負荷がかかるレスキュー用品で使用される用語です。これは、素材や装備が破断(切れたり壊れたり)するまでに耐えられる最低限の力を指します。MBSは、適切な資器材をを選ぶそして組み合わせるための目安となります。

また、写真では、WLL 12.5KNの文字も見えます。

記載されている「WLL」とは、Working Load Limit(作業負荷限界)の略です。これは、安全に使用できる最大の負荷(重さ)を示す基準であり、レスキュー用品だけでなく、工場で使用されるクレーン、チェーン、シャックルなどの荷重を扱う機器でよく見られる表記です。

そしてそれらに記載されている単位は、KN(キロニュートン)で表記されています。

そこで今回は、ニュートンについて整理します。


ニュートンは力の単位で、この名前は、あのリンゴが落ちることによって地球の重力を発見した物理学者のニュートンに由来します。

私たちが普段よく使うKgは質量の単位で、力の単位とは少し違います。

ウィキペディアで調べてみると

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1ニュートンは、1kgの質量をもつ物体に1メートル毎秒毎秒(m/s2の加速度を生じさせる力と定義されています。
地球表面において質量1キログラムの物体の重量は約9.81ニュートンです。
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なお、レスキューでよく使われる単位は、1kNなので、ニュートンの千倍


1kN=1000N 1000N÷9.81=101,9kgとなり

1kNは約100kgとなります。


私もそうでしたが、物理が苦手な人は、ここまで説明しましたが上記忘れて下さい。



ただ、ただ、1kNは約100kgの結論を覚えて、もしなぜ1kNは約100kgか聞かれたら、「それは物理法則だから」と答
えるというのもひとつの手ですが、

簡単に説明すると、kgは、質量の単位、すなわち量の単位です。

KNは、力の単位です。

量と力を区別する理由は、

100kgの物は、平坦な場所でも坂道でも100kgです。

但し、平坦な場所でなく摩擦抵抗の多い坂道を100kgの物を引っ張り上げるには、どれだけの力(パワー)が必要か、また、その必要とされるパワーによりロープをはじめ資器類がどれだけの力で引っ張られるのかを知りたいですよね?

別の例えを出すと

バーベルでベンチプレスをしていると想像してください。


100kgのバーベルを下すときに、重力にあらがわずに、ストーンとおろすと楽だと思います。

そうではなく、重力に対抗して、ゆっくり降ろすと先ほどと違って大きなパワーが必要でしんどいと思います。

バーベル自体は、100kgで同じなのですが、必要とされる力は、かなり違いますよね?

これが、質量と力の区別が必要とされる例えです。

質量を知りたいのではなく、力(パワー)の方がポイントなので、そちらを考慮する必要がありますよね?

このあたりの説明で、レスキュー活動の実務をする方は十分に間に合うとわたしは思います。

その他、内容的にかぶるものはありますが、リギングプレートと力のことについての記事もあります。

リギングプレートの強度と運用荷重

簡単!もやい結びの写真と動画によるわかりやすい解説




もやい結びの知識

もやい結びはロープワークの基本中の基本として広く知られている結び方で、多様な用途に活用されます。結び目の王様(キングオブノット)と呼ばれています。

また、別名で、ボーライン、ブーリンとも呼ばれます。ボーラインは、Bowlineと記載しBowは英語で船首のことを意味し船をロープで結わえるところが由来となっています。

余談ですが単独だと、Bow(バウ)と発音し、Line が加わるとBowline(ボーライン)と発音され呼ばれることになりますが、私が長年行っているアウトドアのラフティングの世界では、Bow Lineのことはボーラインと呼ばれずに、バウラインと発音されています。

それはさておき、もやい結びの特性として、しっかりと固定されるが簡単に解くことができるという点が挙げられます。この特性が多くの場面での実用性を高めています。

但し、後ほどリング荷重とその対処法を解説しますが、使い方を間違うとこの簡単にほどけることがアダとなりクライミングなどでは事故が発生しています

具体的な用途

1. 船舶・ボートの係留

もやい結びは、名前の由来の通り、船舶やボートを岸や桟橋に固定する際によく使われます。この結び方を使えば、ロープが滑らずしっかり固定される一方、解きたいときには力を入れずに簡単に解くことができます。船の揺れやテンションの変化にも対応するため、船の作業に欠かせません。荷重は重くないですが、ラフティングボートやいかだをくくるときにも使います。

2. 登山やアウトドアでの活用

登山やキャンプの現場でももやい結びは大活躍します。特に、次のような用途があります.

テント設営や荷物の固定
テントやタープをロープを用いて木やペグに固定するときに使います。しっかりと結べるため強風時でも簡単に外れることがありません。そのほかにもランタンやライトを木につるしたいときや、ハンモックを括り付けたい時などに重宝します。

3. 災害救助や緊急時の活用

緊急時にもやい結びは命をつなぐ結び方として知られています。例えば:

ロープでの支点確保
クライミングやロープレスキューでロープを固定する際、さっと早く結べて解きやすいことから使用されますがありますが、後述のように末端処理は必ず行うようにしてください。リング荷重で事故が発生しています。

ネット検索すると、安全性が高い結び方であると出で来ることもありますが、ある意味正しく、ある意味それは間違いです。

救助活動


高所作業や救助活動で人を安全に引き上げたり、固定したりする際に用いられます。消防の3つ打ち救助でも多用されますが、末端処理は必ず行われています。


応急処置

物を吊るして固定したり、傷病者を固定して搬送する際にも使われます。

4. 日常生活での活用

アウトドアだけでなく、日常生活でももやい結びは役立ちます。例えば、引っ越しや荷物の搬送時に荷物を固定する際や、庭仕事で道具を吊るすときなど、手軽に使える結び方として重宝されています。

もやい結びを習得するメリット

もやい結びは一度覚えれば簡単にでき、さまざまなシチュエーションで活用できる汎用性の高い結び方です。初心者にも習得しやすい反面、経験を積むことでさらに多様な応用が可能になります。アウトドアや緊急時だけでなく、普段の生活においてもその便利さを感じることができるでしょう。

もやい結びを習得し、何が危険か理解しそして正しく使うことで安全で快適な生活を楽しみましょう!


簡単に覚えれる もやい結びを写真で解説

最初に、以下の完成形を確認してください。



1.まず最初にループを作ります。

ループの作り方は、写真のように結びつけるエンド(ランニングエンドと呼ばれる)が上になるループを作成してください。

エンドが上に来る、数字の6をまず作ると覚えてもよいと思います。

初心者はもちろん向きや結ぶ方法が変わったときなどに熟練者でもループの作り方を間違え混乱して間違えてしまうのは、このループの作り方の向きになります。ここが第一のポイントとなります。

エンドが上にくる数字の6を作る

2. 次に作成したループにエンドを下から上に通してください。


ここでは、必ずループの下から上に通すようにして下さい。この通し方の向きを間違えることが混乱するポイントの2つ目です、写真のように下から上に通します。上から下に通すと結べなくなります。

輪に通す 下から上 向きを間違えない

3. そして手元のエンドの下に通します。



手元の側のエンド(主ロープまたはスタンディングエンドと呼ばれます。)の下に、ロープを通してください。

手元側のエンドに下に

4. そしてループに戻ります。



以下の写真のようにループに戻りますが、ループに戻ることをわかりやすく表現するために、次のように表現されることもあります。覚え方にもなっています。

もやい結びの覚え方のフレーズ その1


池(ループ)から蛇(エンド)が出てきて、木(手元のロープ)に絡みつき、そして池に戻る。

もやい結びの覚え方のフレーズ その2

もしくは、上、下、下、上。

エンドが上に来る数字の6を作る (上)

ループにエンドを下から上に通す(下)

手元のロープの下を通す(下)

そして、作成したループに上から通す(上)

5. 締め付けて完成です.

締め付け方は、以下のようにするのがコツです。


一連の内容を動画にまとめています.


もやい結びの動画  1


もやい結びの動画 2


以下の動画は、もやい結びが出来るようになったときに補足情報としてご覧ください。

動画の目次

0:00 実演:もやい結び
0:39 リング荷重とは
0:57 端末処理1(ダブルオーバーハンド)
1:42 端末処理2(変形もやい)





もやい結びのほどき方のコツ

もやい結びはほどけやすいノットなので簡単にほどくことができますが、締まってしまいうまくほどけないときは次を試してみてください。

①エンドロープをループ方向に戻すように送り込んで全体の加重を緩める

②主ロープをループ方向に押し込んでループを大きくし全体の荷重を緩める

③ノットに衝撃を与えてみて全体の荷重を緩めてみる

④もやい結びの結び目を、もみほぐす


もやい結びが不意にほどける

但し、クライミングで事故が多発したため、アウトドアの世界ではもやい結びは使ってはだめな結び方を言われることが多いです。

それがもやい結びの輪の中に荷重をかけるリング荷重と言われるものです。


リング荷重について詳しく


写真のようにもやい結びにリング荷重をかけるといとも簡単にほどけてしまいます。

これがアウトドアでもやい結びを使用してはいけないと言われていた理由です。

ではもやい結びの代わりに、どのような結びが使われているかというと、それはフィギアエイトフォロースルーです。




完成形は、フィギアエイトと同じですが結び方が、シンプルエイトを作ったあとに、追いかけて通すところから、フォロースルーという名前がついています。

もやいの欠点は、上記に述べた通りですが、

それ以上にロープレスキューで使うときに有効な利点があります。

それは、大きなテンションが掛かっても簡単にほどくことが出来ることです。

バタフライノットでの片利きが発生するとロープをほどくことが出来ません。

また、フィギアナインはほどきやすいノットだと言われますが、以下のショート動画の通りほどくことは困難になります。


よって、もやい結びのメリットを十分に活用しつつ、欠点であるリング荷重による意図せず解ける現象を回避するために、もやい結びのロープの端末を必ず端末処理をしてください。

詳しくは、動画の中で解説しています。内容は、もやい結びの方法、リング荷重とは、そして2種類の末端処理の方法です。

皆さまの安全な活動にお役に立て頂ければ幸いです。

もやい結びのバリエーションについて

①外もやい結び

通常のもやい結びとは違いエンドラインがループの外側に出てくる結び方です。外もやいに比べて通常のもやい結びが内もやいと呼ばれることもあります。英語ではwinter bowlineとも呼ばれます。エンドラインをループの外側に逃がすことで冬の寒い日でもエンドラインとループ部分が氷固まらないようにするためです。(諸説あり)

②引き解けもやい結び

最後にエンドラインをループに通すときにエンドラインをUの字にして入れることで、引き解け結びにします。簡単にほどくことができるので便利です。

③二重もやいむすび

ループの部分をたんに二重にしたもやい結びです。普通のもやい結びに比べれば強度は上がります。

④巻きもやい結び

ループの部分を巻き結びにしたもやい結びです。普通のもやい結びに比べて強度が強く、とくにロープが水にぬれてノットが滑りやすいコンディションでも強さを発揮します。英語ではwater bowlineといった呼ばれ方もします。

様々なもやい結びがありますが通常のもやい結びをマスターしてから応用なものに挑戦していきましょう。それぞれのメリットを理解し生かすことができれば立派なロープマスターになれることでしょう。





動画でも解説していますが、ブログで内容も投稿してますのでご覧ください↓

もやい結びの末端処理 その1

もやい結びの末端処理 その2

RESCUE JAPANブログ